「『フランダースの犬』に、言いたいことがある」
誰もが一度はそう思ったことがあるだろう。
可哀想すぎるとか、ひどいとか、そういうことを
誰もが一度は思った筈だ。
だが、時が経てば、子ども時代に読んだ悲しい話なんて、雑事に過ぎなくなる。
もっと悲しいことは山ほどあるし、他にも言いたいことも出てくるし、
そのいくつかの言いたいことが言えなくて、後悔している内に
『フランダースの犬』なんて、たまに飲みながら「アレ、悲しいよね」と
思い出すくらいだろう。かく言う私もそのクチだ。
童話の作家論や作品論、資料的価値や背景諸々など、
オトナが語りたがったり、論じたがったりすることはある。
ただ、しかし、純粋に「納得いかない!」と叫ぶことは、極めて稀である。
だからこそ、私は藤田和日郎が大好きだ。
「納得いかねえ!」
登場人物が汗を振り絞りながら叫ぶ。
その台詞を吐くことが、どれ程難しいか。
どれ程意味が無いことか、知りながら全力で叫ぶ。
魂が籠もった画力で、全てぶつける。
『マッチ売りの少女』が気に入らないという理由で書かれた
『うしおととら』は、少年漫画の金字塔となった。
その後も『からくりサーカス』、『邪眼は月輪に飛ぶ』、
『黒博物館スプリンガルド』と、痛快で非常に練られたストーリーを
産出してきた藤田氏だが、近作の『月光条例』で、より端的で、
無駄を割いた、開き直りに近い程の「言いたいこと」を全面的に魅せてくれる。
全身漫画家。この言葉が似合う人は、手塚治虫と藤田和日郎だけのような気がする。
あー今日も藤田先生は気炎をあげながら漫画を描いているんだろうなーと思うと、
とても嬉しい。藤田和日郎と同年代に生きていることを、心から喜ぶ。
つくづく自分は人に恵まれていると思う。
小説を書いていて気付くことは山ほどあるが、
自分の周囲のありがたみ程、確信を覚えるものは無い。
この展開は、あいつが喜ぶ。
この描写は、彼なら気付いてくれる。
ここの複線は、彼女なら唸る。
このキャラクターは、あの人なら納得しないだろう。
この設定は、全員が楽しんで、考えてくれるに違いない。
実際、面白いかどうかなんて知るか。
鋭意執筆中。前と違って時間はあまり無いが、
その分密度の濃いソーサク活動をおこなっております。
追伸。前回と違い、今回は連載・・とは言いませんが、
各パートごとの反応を見てみたいと思っています。
もしよろしければ(よろしくなくても)近日中に皆様に
「第一章 第一項 その1 の1」くらいを送りたいと思ってますので、
感想をくれたらぺこぺこ喜びます。
なんかこんなこと書くと、本当に小説家みたいだね!と、ちょっと興奮。
慢性的な鬱に悩んでいる。
ここらでちょっと小粋なジョークでもかますかぁと思っても、
頭を振り絞ってもエスプリの一つも出てきやしない。
肩が張っているとか、仕事で疲れているというわけでもない。
家に帰り、フゥーッとネクタイを外した瞬間にどしゃぶりのような悪寒に襲われる。
最近心から笑った記憶が無い。
常に面白かったことを思い出し、馬鹿な鈍牛のように反芻していた筈なのに、
いつのまにか脳裏から楽しい記憶だけがすっぽりと抜け落ちたようでもある。
最近、感心したことはあった。
我が家の子犬、ルークが9ヶ月になり、そろそろ身体が二次成長を迎え始めた。
雄々しい日本犬は、未だ性的本能のみに支配されているわけでは無いだろうが
常に若さを持て余すように走り回っている。
そして、去勢しようという話になった。
母が「懇意にしている獣医に話した」とか、「だれだれの家のワンちゃんはもっと
早く手術した」という話に対し、私はその他多くの話と同じように生返事をした。
しかし、どこか消極的だったようで、話の結論を求める母に
「まだいいんじゃないか」と答えておいた。
先日、母が犬のダニだかノミだかの薬を取りに獣医を訪ねた際、
獣医に私の話をした。ルークの去勢にイマイチ乗り気じゃないらしい―と。
獣医―ちなみに女医だ―は、ルークの首筋を柔らかく撫でながらあっさり言ったらしい。
「男の人は、皆基本的に反対するんですよ」
私はその話を夕飯時に聞いた際、うっかり箸を落としそうになった。
そして肩を竦め、ビールを手酌で飲んだ。
我が同類である男性ルーク君の肩をポンと叩き、そして反対の立場を取らなくなった。
仕事は順調すぎるくらいに、上手くいっている。
勿論それは社会的成功とか、自身の満足度とは大きく離れていて、
物事は相変わらずと言っても過言でも無いくらい失敗を重ねた上で
その上を緩やかに通り過ぎていくが、それでも満足感は溢れんばかりである。
ワーカホリック。体育会や土星の大気について書かれた論文と同じくらい
私から離れている筈の言葉が微妙にしっくり来るとさえ思う。
何かが足りないとさえ思わない。強いて言うならば、何かが余っている。
感情のタガが外れているのか、最近やたらと愛想が良くなった。
ニュース番組を見ながら社会に憤りを覚えることさえある。
大して知りもしない有名人の訃報に涙が流れることさえある。
感情のタガと言うのとは少し違う、何かが心の中にある。
それが私を怒らせ、泣かせ、精神を疲弊させる。
何かが余っている。それは私の人生に、元々あったものなのか、
新しく生まれたものなのか、または何かを失って得たものなのか、
それさえもわからない。
三人の愚か者が徒党を組んだ。
一人は賢人となり、一人は凡人となり、一人はより愚か者となった。
三人の凡人が徒党を組んだ。
一人が賢人となり、二人が愚か者となった。
三人の賢人が徒党を組んだ。
三人が愚か者となった。
何の話だって? 何の話でもないさ。
テロリストトランプという物があった。
悪ふざけが好きな友人の家にあった、アメリカ産のいきすぎたブラックジョークの賜物だ。
一枚一枚にそれぞれ著名なテロリストの指名手配写真が貼られている。
ジョーカーはビン・ラディンだった。シラフならば顔をしかめるが、
三杯程ウィスキーを飲んだ後なら、それでポーカーを朝までやることも可能だった。
あの晩、不眠不休でFBI達が駆けずり回る中、私は紫煙とアルコールが充満した部屋で、
ひたすらテロリストの顔を眺めていた。
いつだったか、やたらと片目が疼いたことがあった。
多分左目だった気がする。煙草に火をつける時のライターの灯り、
歓楽街のネオン、夜半過ぎた誰もいない事務室の蛍光灯、
全部が苦痛だった。いつのまにか治ったが、あの痛みは何かを訴えていたような
気がしてならない。
日はまた昇る。だから憂鬱なんだ。
FUCKと叫べる程、私は格好良く無い。
畜生と叫べる程、私は渋くない。
南無三と叫べる程、私は老いていない。
どこか未開の部族の言葉で、今の気持ちを言い表せる言葉があるのなら、
今後私が稼ぐ金を全て譲ってやってもいい。それをくれ。
酒も煙草も女も大好きだ。
ただ二日酔いの頭痛と朝に吐く膿のような痰と、
怨嗟のような啜り泣きだけは大嫌いだ。
「後にスタンダードになる」
「つまりくだらないってことだよね」
アンブレイカブル。アンビシャス。アンフォゲタブル。
アンビバレント。アンビバレント。アンビバレント。
あーあ。くっそくだらねえ。

